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執筆者の写真Naoko Okuda

強い公権力と柔軟な対応

第3波真っ只中のフランスでは、4月10日現在累計陽性者数は、490万人、累計死亡者数は10万人達しそうな勢いです。(国民人口は日本の約1/2の6千万人。)


フランスののCovid19対策は、多くの点で批判を浴びてはいますが、しかしながら重症患者受け入れ増床・増員における現場の工夫と行政の柔軟な対応は賞賛に値する点も多くあります。


現場の証言から一つ一つ見ていきましょう。


民間非営利病院連盟A.P会長によれば、非常事態体制が発令され、ARS(Agence Regional de Santé 地方保健庁)は公・私立医療機関を緊急会議に召集、「全ての医療機関は、ICU病床を倍増せよ。その為には、通常の医事法・規制等は問わない。責任の一切は、行政側が負い、事故の際には、病院長・医療職者の訴訟責任は国が全面カバーする。」と明言します。


いわゆる「肝の座った」強いリーダー・シップを発揮したARSに、日頃の各ステーク・ホルダー間での対立や壁は突破され、「挙手制」であったにも関わらず、公・私立「全ての」医療機関がこれに従ったと言います。

この要請を受けたのが金曜日、医療機関側は計画手術・入院は100%キャンセル、ベッドを空け医療従事者を確保に奔走、平常時の規制では『ICU病床』の条件に満たない『ICU同等病床』が開設され、翌月曜日には、ICU病床倍増を実現したと言います。


これらのベッドに配置する、『ICU麻酔・蘇生医、手術室看護師、麻酔看護師』は、どのようにしたのでしょう。パリ大学医学部で一般内科教室を持つS.G教授によれば、ICUに配属する専門医・看護師が全く足りなくなった際に、他の科から、例えば消化外科や心臓外科から医師を呼び、短時間でICU研修を受けさせ配属させたそうです。その専門においては有名教授も、ひとたび自分の専門ではないICUに入れば、若き研修医のごとく、「学ぶ」「指示に従う」姿勢で積極的に協力したと言います。その姿勢に、周りの看護師・コメディカル・スタッフも刺激を受け、自分の仕事ではない領域のタスクを進んでこなしたと言います。


そしてこの現場の総力に対して、政府は報酬で答えました。フランスの医療機関には、公立・私立(営利・非営利)の三種類がありますが、「公益サービス参加」認定病院の医療機関の平均利益率は、どこも2%前後であると言います。民間非営利医療機関と言えど、フランスでのその定義は、所有権・配当がないだけで、赤字では経営を長く続けることはできません。記録的な減収・支出増を出した全医療機関に足しての損失補填を政府は行いました。


病院の創意工夫と全ての力を結成し増床しましたが、在宅もこれをしっかりと前方・後方支援します。在宅入院医師N.G医師の証言によれば、ほぼ全ての軽・中等症患者は、在宅療養となりました。また、「命だけはなんとか救いました。」とばかりの状態で早期退院、帰宅してくるコロナ患者も在宅で受け入れ、歩行リハビリを含むADL回復に向け加療します。病院に比べ物資配給の遅れがちであった在宅の現場ですが、やはり経済的に異例の大型追加予算投入がされました。


上述の全ては、平常時の法規制では到底できなかった「例外措置」「脱法」ばかりでの対応であり、その公権力行使には、一部からは危険視されながらも、非常事態での力強いリーダー・シップを少なからずの医療機関経営者は評価しています。


それでも尚、果たせなかった「メイド・イン・フランス」のワクチンへの悔しさは、専門家らの

「常任理事国で唯一ワクチンが開発できなかった」「パスツール誕生の国」などの発言から伺えます。彼らの政府に対する辛口批判は、愛国心ゆえの歯痒さ・裏返とも取れます。


非加熱血液製剤訴訟が当時の首相や保健大臣の責任追及にまで至ったフランスでは、「リスクとのトレード・オフ」にモラルハザードが強くかかったのかもしれません。ワクチンについては、何事にも慎重の上に慎重な日本人と似ている所があるのかもしれません。

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